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スカパーで、ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルを見ていたら、「ネッシー、ドッキリ大作戦」というのをやっていた。こういうのって英国では平気なのだろうか? 映画のアニマトロニクスの専門家や元海軍特殊部隊の潜水夫などを雇い、偽のネッシーを作って、観光客に発見させて反応を見るという内容。クレジットを見ると、製作は英国のDARLOW SMITHSON PRODUCTIONという会社で、去年NHKでやった『ダビンチ捜査官~消えた名画を追え!~』や『ストーンヘンジ ~復元!謎の巨石群~』なんかも製作している。しごくまともな製作会社にも見えるが、さすがに、NHKは「ネッシーの復元」はやらなかったということか?
とにかく、内容が結構すごい。というか脱力系ともいえるが、スタッフは体を張っている。まずは、首を生き物のように曲げられるネッシー(ルーシーと愛称が付けられている)の下に潜水艇を付けてテストするのだが、なんと潜水艇が沈没。そこで、ルーシーの下に梯子を取り付け、そこに水中モーターみたいなのを付けて、潜水夫が操縦。これにも問題が発生。最後は、ルーシーの背中のコブだけを潜水夫がカメさんのように背負い、観光船とも示し合わせて目撃させてしまうのである。この忍者ばりのヤケクソ作戦で、観光客も「ネッシーだ、ネッシーだ!」と大喜び。しかし、番組のスタッフロールのヨコで「アレは、ウソでした!」と、喜んだのも束の間の観光客に告げて反応を見るという映像で終わるのである。番組を、まじめに見てしまった私には、なんとなく釈然としないものがあった。
などと書いていたら、かつてネッシーについてかなり詳しく調べたことがあったのを思い出した。以下は、『月刊アスキー』1992年10月号掲載の「近代プログラマの夕」である(単行本では『近代プログラマの夕2』《アスキー出版局、ホーテンス・S・エンドウ》に収録)。
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「特殊報道写真」
1992年1月16日
ちょっと古い話になるが、今年の1月16日の「東京スポーツ」の第一面を飾ったニュースに、ド肝を抜かれた人もおられるのではなかろうか? そこには、
ネス湖の怪獣・ネッシー遂に生け捕り
と大書されていたのである。
そして、泡をブクブク上げているネッシーとおぼしき恐竜の首のあたりにアクアラングの人が近付いている写真も載っていて、「7か国共同調査団が撮った・これが世紀の証拠写真けさ日本初公開!」とも書かれている。記事は、「スコットランド・ネス湖に棲息するといわれる伝説の怪物ネッシーがついに“生け捕り”にされた--と米誌が報道して全米でセンセーションを巻き起こしている。1350キロのマグロえさで巨大スチール網に捕らえられたとされるネッシーの“鮮明写真”も公開されたが、それは体長21メートル、体重20トンの巨大な怪物で……」とある。
こういうと、なんていったって「東京スポーツ」、東スポだよ東スポっ、本来なら、『巨人3連敗』とかなんとか、そういうのが一面を飾るハズのものなのだが、プロ野球もやってない1月などとなるとネタ切れになっちゃうんだよと指摘する人もいるでしょうね。しかしですよ、巨人の3連敗であろうが、阪神電車の急停車であろうが、馬場の血ダルマ(こりゃチト古いかぁ)であろうが、そこに書かれていることは、実際に起きたことになっていることなのだ。
さて、くだんの記事をもう少し見てゆくと「7か国の科学者たちは昨年('91年)12月23日、マグロをえさにネス湖の怪物をスチール網に捕らえ、1300年も昔の西暦690年に初めて目撃されて以来、ずっと人々の興味をかきたててきたネッシーの鮮明な写真を撮影した--と報じたのは米『ニューズ』誌」とある。それから、「ネッシーとして世界的に有名なネス湖の怪物の捕獲は、900万ドル(約12億円)の研究プロジェクトで、ジェネ博士によって組織され、フランス、イタリア、ベルギー、ドイツ、スウェーデン、ノルウェー、そしてアメリカの科学者たちの協力で行われた」とある。1月末までには、血液と細胞を採取するなどの作業は終了し解放されるとのこと。
ムッシュ登場
ネス湖の怪物といえば、小学生でも知っている今世紀最大の生物。手元の『The Encyclopedia of Monsters』(Daniel Cohn著、Avon Books刊)によると、Loch Ness Monster(Lochはスコットランド語で湖の意味)、またの名、ネッシー(Nessie)の最初の記録はAD565年、キリスト教の偉大な伝道師だった聖コロンビア(Saint Columbia)が遭遇したというものだという。伝記作家は、暴れまわる水怪獣から泳いで逃げてきた人をコロンビアが助けたときの状況まで記しているのだ。ただし、これが今日にいたるまでネッシーが攻撃的な行動に出た唯一の例だという。
最初に目撃されたとする年が、新聞の西暦690年と異なっているのが少々気になるが、1960年から組織立った研究が開始されていることも事実のようだ。また、ネッシーが世界的にセンセーションを巻き起こしたのは、1933年4月14日ジョン・マッケイ(Jhon Mackay)夫妻が、新しくできた道路を家に帰る途中、数分間にわたってその巨大な生物を目撃したのが始まりだという。ジョン・マッケイ氏の話を友人のキャンベルという人物が、1933年5月3日に新聞に書いたのだ。なお、その後、マッケイ家は宿屋になり、いまもネッシー研究家たちの常宿になっているとのことである。
ネス湖の調査、目撃談、潜水艦まで使ってのネッシーの探索の話は、いちいちあげているとキリがないほどである。第二次大戦中には、ネッシーはドイツ軍の爆弾で殺されたという噂が広がったし、1965年には英空軍(Royal Air Force)が撮影を試みているし、ニューヨークタイムズによる調査、さらにはフィルムによる撮影者に賞金を出すという話まである。
さて、こんな折、実は、編集部のムッシュ・ノグーシが、問題の'91年暮れにイギリスに渡っていたことが明らかになった。そして、なんと東スポがネッシーが捕獲されたと報じている12月23日より4日後の27日、28日はまるまるネス湖にいたというのである!
スコットランドは、イギリスのいちばん北に位置する「トサカ」の形のところである。ムッシュ・ノグーシは、スコットランドの男性が履くスカートのようなものやバグパイプに深い興味を示していたとの噂があるが、スコットランド各地をまわっていた。ネス湖は、ハイランド州の州都であるインバネス(Inverness:ネスの河口の意味)からほど近いところにある。見所は、湖畔にある14世紀に作られ崩壊したままのアークアート城と、Loch Ness official exhibition(ネス湖公式展示館)の2つだという。
ムッシュは、宿のおばさんに1マイルだよと言われて歩いてネス湖に向かった。ところが、1時間ほど歩いても湖は見えない、途中の風景は、C・W・ニコルの番組に出てきそうな見渡すかぎりの自然である。野放しの羊くんたちが草をはんでいたりする。もうダメだと思ったころ、「1マイルでネス湖」という標識を見つけた。最近では、バスツアーなどもあるネス湖だが、シーズン・オフの観光地ほど寂しいものはない、アークアート城、ネス湖公式展示館とも、それぞれ30人くらいの客がチョロチョロといるだけ。
ネス湖公式展示館は、教室をいくつかくっつけたくらいの1フロアで、見学順路にしたがって、ネッシーの紹介パネルやスライドなどを見ていくと、出口のところに縫いぐるみや観光地でよく売っている胴体の一部が透明になっていて中のものが動くボールペン(ここでは当然、ネッシー!)などのお土産品が売られていたそうだ。
1月16日付けの東京スポーツの「ネス湖の怪獣・ネッシー遂に生け捕り」記事の話を、ちょうど大騒ぎになっていたころにネス湖そのものにいたムッシュにしたところ、彼のコメントはというと、
「気がつきませんでしたねぇ」
というものだった。
特殊報道
さて、ちょっと困った。そこで、パソコン通信のデータベースサービスを使って、その後のネッシーについて調べてみた。すると、朝日新聞の'92年2月4日朝刊に、
ネッシー“健在”(特派員メモ・ロンドン)
という記事があることが分かった。
「早朝、東京から電話があった《ある話の真偽、出所を確認して欲しいんだが……》。電話の相手は少し口ごもって《ネッシーが網で生け捕りにされたというニュースなんだが》。ご存じの向きもあるだろうが、日本の某スポーツ紙が報じたのだ。体長21メートルなど、まことしやかな数字もあったという。スコットランド省広報部の「ワハハ」でケリがついたが、話の出所は分からずじまい」。例の記事で、朝日新聞の東京の記者とロンドンの特派員とスコットランド省広報部の間で、電話が飛びかったのだ。
やっぱりね。という読者の声が聞こえてきそうだが、やっぱりそうなのだろうか? そういえば、ネッシー研究プロジェクトの予算は900万ドル(12億円)と書かれているけど、900万ドルなら1億2000万円になるはずだ。ところで、このネッシーの写真を、筆者のムー・笹川氏は見たことがあるという。それから、先ごろ「アイコン」誌にマイナーマシンと本に占領されたお部屋が紹介された編集部の古谷野ビブリオ綾丸氏の手から『特殊報道写真集・スーパージャーナル』という本の出版案内・注文票が出てきた。これは、「WEEKLY WORLD NEWS」という米国の週刊紙との提携による123枚の特殊報道写真を集めたものだそうだが、このビラに載っている写真が、東スポの一面を飾った「世紀の証拠写真けさ日本初公開!」の写真と同じものなのだ。ビラをよく見ると、「米大統領ブッシュ、エイリアンと対談」とか「羽根がはえて生まれた子!」とか「ニュージーランドの農夫が巨大バッタをしとめた」とかいう写真が載っている。そして、本書の特徴として「東スポ(東京スポーツ新聞社)、女性自身(光文社)、月刊ムー(学研)などでおなじみ、過激報道写真満載!」と書かれている。そういえば、巨大バッタの写真は、「ムー」で見たことがあるぞ。'91年の8月号の“MU HOT PRESS”227ページだ。
ちなみに、この巨大バッタの写真は、有名ななんでもベストテン本の『The Book of List #3』(Bantam Books刊)で「8 worst monster hoaxes」(8つの歴史上最悪のインチキ怪物)の6番目にあげられているものである。ただし、ムーのほうは写真が裏返しになっている。それと、ムーでは、'91年3月11日に捕まったことになっているが、これが56年も前の1937年9月9日に発表された写真なのだ。よく見ると、農夫が足を持ってかかげたバッタの部分は、あからさまに切り貼りであることが分かる。しかし、ムーもさるもの翌月に発売の'91年9月号では、「先月号で紹介した巨大バッタを、今度は家族で捕まえた」という写真が載っている。
さて、先の新聞記事で「そういえば、最近ネッシーの話をトンと聞かない」と朝日新聞のロンドン特派員に書かれてしまったネッシーのほうだが、結局、その後はどーなったのだろうか? これが、実は、その朝日新聞の'92年の8月1日夕刊に、
ついにネッシー発見? 科学者グループが発表
という記事が載ったのである。
「英スコットランドのネス湖で幻の恐竜“ネッシー”を追跡中の科学者たちは31日、水中でついに《正体不明の物体》を発見したと発表した。それによると、調査で使用している潜水艦の水中ソナーシステムが28日、何物かを感知した。同潜水艦はハイテク機器を装備しており、直ちに追跡したが、2分後に識別圏から消えたという……」。これは、時事の配信をもとにしたものだ。英国の由緒正しきガーディアン紙の8月1日付けでも、Peter Hetheringtonという記者が、「Bubble goes up for 'NESSIE'」というタイトルで書いている。また、ガーディアン紙を見ていくと、今年はネッシーの当たり年で、2月、6月、7月、そして8月とネッシー関連のニュースが流れている。
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いまならインターネットでサッと調べられそうなことも、当時は、たいへんだったのを思い出す。で、例のナショナル・ジオグラフィック・チャンネルの「ネッシー、ドッキリ大作戦」と照らし合わせてみると、なんとなく見えてきたような気がしてきた。英国人、というよりも英語圏の人間にとって、ネッシーは、その存在自体がちょっとした娯楽なのである。そして、番組を見直してみると「伝説を信じる人、信じない人。アニマトロニクスの技術を使って精巧なネッシーを作り上げ、ネス湖に浮かべたら人々はそれを本物と信じるでしょうか?」などと言っている。つまり、割りとシリアスな発想でネッシー伝説に取り組んでいるのではないかと思えてきたのでありました……。
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