コデラノブログ 3

幸福確認機

今日はCanonの新しいビデオカメラの内覧があって出かけてきた。詳細は情報解禁前なので書けないが、僕が一般にCanonびいきと言われるのには、わけがある。いくらもらってるんだなどと邪推する人もいるが、お金をもらっているわけではない。

Canonはいつも、内覧会のあとに昼食会や夕食会などを開いてくれて、設計者、マーケティング担当者と膝つきあわせて本音で話しをさせてくれる席を設けてくれる。そこでいろいろ考えさせられるテーマをぶつけてきてくれるところが、他のカメラメーカーとスタンスが違うところなんである。いやこんなことは書いちゃ反則なのかもしれないが、オレはココロにダムがない人間なので、書いちゃう。

僕は個人的に、ビデオカメラの画質がいいとか悪いとかってのは、実に底の浅い議論だと思っている。そんなもの、時代が解決するのである。そうじゃないんだ。撮像機器として、10年スパンで考えたときに、どこに向かっていくのか。いやどこに向かっていくべきなのか。そういうことを、今日明日の製品レベルではなくて、話を聞いてくれて、話をしてくれる、そしてその話が通用する会社であるということを信じているのだ、と言える。

今日キヤノンから投げられたボールを僕なりに考えてみたときに、まあどんなボールを投げられたのかは秘密なのだけど、ビデオカメラってのは、自分の幸福確認機という本質があるんじゃないか、と思い至った。1970年代に、ビデオカメラでニュース取材をするENGが脚光を浴びたのは、何だったのか。

それは、他人の不幸をいかに生々しく映し出すか、ということだったのだと思う。そうしてテレビを通じて人の不幸を生々しく受け止めた一般大衆は、「オレ達はあの人達よりはマシだ」と確認することで、今あるささやかな幸福を支えに生きる希望を見いだしたのである。

そして今も、ニュースはその役割を果たし続けている。仕事がない、家がない、不細工だ。そういう人たちよりはマシだという比較対象を、生み出し続けている。家庭用ビデオカメラも、そういう報道用途としての形、すなわちテレビ局ニーズをダウングレードした格好で、この30年やってきた。

しかし、もうすでにその意味合いが変わって、次の30年に入りつつある。次のフェーズとは、今ある現実の幸せを、より拡大して見せてくれるためのカメラ、である。目の前の現実をそのまま映し出す事は終わり、目の前の現実を、目視以上に良く見せてくれるもの。それが次の30年で求められる物だ。

スチルカメラが未だに滅びないのはなぜか。それは、絵が止まるよね、というおもしろみだけで残っているわけがない。目の前の現実を、それ以上に拡大して、小さな幸せをより大きな幸せに拡大して見せてくれる技術、それが今だに残っている理由であると考える。

多くの人がビデオカメラを持つに至った現代、すでに撮影時にナマの現実に向き合っている者に対して、さらに現実を突きつける必要などないのだ。それよりも、カメラで撮ると現実がこんなに良くなるんだ、という幸せを見せてくれるものこそ、次の30年に求められる性能だ。

誰でも取れる、というのは、カメラが抱えていた大きなテーマであった。それは古いカメラをいじくってきて、いかに普通に撮ることをが難しかったのかを、自分なりに体感してきたつもりだ。

しかしそれがクリアされたあと、次のステップは、「予想外に良く撮れる」ことなのだろうと思う。それは画質云々ではなく、表現の領域である。絞りやシャッタースピードを変えれば、ある程度表現できることは、カメラの仕掛けを知っている人ならわかる。しかし、そうではない人に対して、そういうプリミティブな仕掛けをいかに簡単にアクセスさせるか、の領域に入ってきているのである。

アートワークを、一般人がやっちゃいけないのか。一般人はアーティスティックな表現がわからないのか。それは違うと思う。専業アーティストでなくても、アートワークをやる権利は、誰にでもある。そういう豊かな国に、日本はようやくなったのだ。

僕は、そういうことをやれるのがカメラメーカーの責任だと思っているのだけれど、実際はキヤノンよりもソニーのほうがそういうことに理解がある。ソニーは、売れる見込みがなくても、「出すべき」製品を出し続けている。それは、販社の意向が強すぎない会社のベストバランスだ。

キヤノンの課題は、マーケティングの意向のさらに先を読んで、未来を示唆する製品が投入できるか、ということだと思っている。

自分に合ったものが欲しい、というオレ様基準主義が通用したのは、自分大好きなゆとり世代がメインの消費者層だった時代だけである。今は、自分を変えて欲しいモノが欲しい。そういう時代に突入しつつあるのだと言える。

この記事へのトラックバックURL

http://blogmag.ascii.jp/admin/mt-tb.cgi/2611

この記事へのトラックバック(0)